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傷は抱えたままでいい 09

2015.12.06 00:51|傷は抱えたままでいい
08 ←前回

次の日、リコは私のことなど気にも留めない様子でいた。
昨日のことなんてまるでなかったかのように、普段と変わらない日常のままだ。

窓際に座るリコは、やっぱりぼんやりと外を眺めている。
長い黒髪は相変わらず綺麗で、その顔立ちはすこしキツめだが端正と言っていい。
無表情なのが逆に絵になる風貌。怒ったり笑ったりするところは見たことがない。


……その彼女が露わにした感情。あれはなんだったのだろう。

――――私に関わらないで

忠告だと彼女は言った。
まるでキスを見られたことより、見てしまった私の方を心配するような。
それに普通は口止めしようとするものだと思うのに、そんなことは一言も言ってこなかった。

私が誰かに告げ口をすれば、困るのは彼女であるはず。
なぜだろう、本当に危ういのは私の方だと感じるのは。


「チサ、チーサ! どうしたのー?」
「うんうん、ずっとボーっとしてさ」
「……あ、ご、ごめん」

里穂と有希が心配そうに声をかけてきた。
3人で話をしていたことを忘れるくらい、私はリコのことが気になっていたらしい。

ただ、私はあの事を誰にも話す気はなかった。
言ったところで信じてもらえないからというのもある。
でもそれ以上に、あれは誰も侵してはならないと、そう思ったからだった。

リコと誰かのキス。
女性同士の、女性同士だからこそのキス。


その現場を目撃して、私が感じたのは『見てはいけないもの』だった。
それは果たして、学校だからとかキスそのものがどうとか、女性同士だからとか、そういう常識的な見方だけの話だったのだろうか。


リコの唇を思い出す。
触れてはいないけど、私の唇とは数センチだって隙間がないほど近づいていた。

ちょっとのはずみで、ほんの少しの意思で、重なり合ってたかもしれない唇。
そしてあの時、『かもしれない』ではなく、本当に『重なり合ってた』唇。


「相手は……誰なのだろう」
昨日とは違った気持ちの中で、再び芽生えた疑問を口にする。

里穂と有希はそれに気づいてはいなかった。
否、突然教室に響き渡った音に、二人は気を取られていた。

次回→ 10

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傷は抱えたままでいい 08

2015.12.03 18:18|傷は抱えたままでいい
07 ←前回

「……じゃあさ」
もう沈黙だとか威圧感だとかどうでもよくなってきた。

突然声を掛けてきて、言われるままについてきたというのに。
私の言葉は聞き入れず、ただ遮るだけで。

(何がしたいっていうんだ……!)
芽生えてきた怒りに身を任せて、言いたいことを口にする。


「なんだっていうの!? 私だって見たくて見たわけじゃないってのにさあ! だいたいあんなところでキスなんかしてないでよね! しかも相手女だったでしょ!? いや別に誰としてたっていいんだけどさ? 相手は一体だれ――――」
そこまで言って、私は三度リコに話を遮られた。
それも今度は言葉でではなく、行動によって。

彼女は私の両手を壁に押さえつけ、その顔を至近距離まで近づけてきたのだ。
唇がふれ合う直前。そう、それはまるでキスをする一歩手前のような…… 

「……っ!?」
私とリコは背はそんなに変わらない。羨ましいことに、体形はむしろ彼女の方が細いくらいだ。
なのに振りほどけない。それほどまでに力がこもっているのか、あるいは……


「それ以上は、駄目……いい?」
吐息がかかるほどの近さのまま、リコは話を続ける。
「見たことを忘れろとは言わないわ。でも一つだけ忠告する。私に関わらないで――――それだけよ、私の言いたいことは」

そこまで言って、リコは私の手を離した。
その瞬間、私の身体は糸が切れたマリオネットのように膝から地面に崩れ落ちる。
そんな姿に目もくれず、それじゃあ、と言って彼女は立ち去ってしまった。




「な……っんなのよ!」
怒りとも戸惑いともつかない複雑な気持ちのまま、私は彼女の後姿を見る。
しばらく立つこともできず、振り絞るような声で呟くしかなかった。

次回→ 09

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傷は抱えたままでいい 07

2015.11.28 21:22|傷は抱えたままでいい
06 ←前回

「えーと、霧子さ……」
「リコって呼んで」
名前を呼んだ私に、彼女はすぐにそう返した。
まるで私の言葉を遮ろうとするかのような威圧感に、一瞬言葉が詰まってしまう。

そんな気持ちを察したのか、鈴森霧子――――リコは慌てて言葉を付け加えた。
「みんな……そう呼んでるから」
「う、うん。ごめん……」
なぜ私が謝るのか、そんなことを考える余裕もない。

決して和やかとは言えない雰囲気。
リコがなんのために私を体育館の裏に連れてきたのか、この沈黙では分からないままだ。
いや、思い当たる節はもう一つしかない。でも私から、それを切り出すことができない。

結局彼女が再び口を開くまで、私は黙っているしかなかった。


「千紗季さんさ……」
一度深呼吸をし、決意を固めたかのようにより強く私を見据えながら、リコは聞いてきた。
「……見たんだよね?」
「…………」

何を、とは言えなかった。
ましてや、しらを切ることなんてできるわけがない。
疑問形なのにほとんど断定するような強い語気を前に、私は素直にうなずくことしかできなかった。

「あ、あのね霧――――」
「リコ」
再び遮られる私の言葉。
言い訳も謝罪も聞きたくないというのか。
それともそんなに名前で呼ばれるのが嫌なのか。

とにかく彼女から感じたのは、ただ何も受け入れたくないという壁だけだった。


なんだか怒りがわいてくる。

次回→ 08

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傷は抱えたままでいい 06

2015.11.26 22:57|傷は抱えたままでいい
05 ←前回

「!? ひあ、な、……は、はい?」
突然のことに、私の声は完全に裏返っていた。
さっきまで頭の中を駆け巡っていたクラスメイト、その張本人の鈴森霧子が私に声を掛けてきたのだ。

クラスメイトである以上会話をすることはあり得ることであるが、彼女から話しかけられることは今までなかった。
それが今このタイミングで私に用がある……思い当たる節は一つしかない。


しかし、霧子は私に声を掛けたきり黙ってしまった。
周りを見回して、気まずそうな表情を浮かべる。

「……ここじゃ駄目ね。ついてきて」
見るとまだ教室に残っていた他の生徒が、一斉に私たちの方を見ていた。
私の声は裏返っただけじゃなく、思った以上の大きさだったらしい。

「…………ごめん」
霧子の姿を追いかけながら謝るが、彼女は何も言わずに進んでいく。
黒い髪を靡かせて毅然とした様子で歩く霧子とは対照的に、私の心は不安だらけだった。


向かった先は体育館の裏だった。
人が通ることは滅多になく、物語の中ではよく秘密の会話をするのに適した場所として挙げられる。
それは私の学校も例外ではなかった。

日が沈みかけている。
補習にたっぷりと時間を使ったため、もう部活の声も聞こえず辺りに人の気配はない。
あの時と同じ、薄暗い夕暮れ時だ。


霧子は立ち止まったきり、私の顔をじっと見て黙っていた。
誘ったのは彼女の方なのに、まるで私が話すのを待っているよう。

その切れ長の目は、奥に見える深い黒の瞳は、まさしくあの時私を見ていたものだ。
恐れるでも蔑むでもない、穏やかでありながらまっすぐに突き刺すような視線から、私は逃れることができない。

先に沈黙に耐えられなくなったのは私の方だった。

次回→ 07

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傷は抱えたままでいい 05

2015.11.21 09:00|傷は抱えたままでいい
04 ←前回

――――2週間後。


試験に撃沈した私は、今日から始まる補習に憂鬱な気持ちでいた。

「じゃあ、部長には伝えとくよー」
「うー……お願い、有希」
「まったく情けないなあ」
部活へ向かう二人を恨めしそうに見送って、大人しく鞄からノートを取り出すことにした。

里穂はあれから特に何事もなかったように、元気な姿に戻っていた。
泣いたのもあの時だけ、引きずる様子もなかった。
もしかしたら私たちに見せないだけで、人知れず涙は流しているのかもしれない……でもそれをおくびにも出さない彼女の強さが私には輝いて見えた。


でもそれよりも気になって仕方ないことがあった。

その張本人は窓際の前から2番目に座っていた。
部活の時間になっても外を眺めて動こうとしないその人は、多分私と同じ補習を受けるためにそこにいる。
それなのにまるでやる気のなさそうにボーっとしているだけで、なんの危機感もなさそうに見えた。


鈴森霧子。長い黒髪とすらりと伸びた足が目をひく、はっきり言って美人に属する人間だ。
そして私の見間違いじゃなければあの時保健室で女の人とキスをしていたクラスメイト。
さらに見られたことも、それが私であったことも知っているだろう彼女。

彼女の切れ長の目が、その奥に見える瞳が、確かに私を見ていた。

ありがたいのか不気味なのか、今日にいたるまで彼女は私に対して何も言ってこなかった。
私が意識して避けていたこともあったかもしれないが、彼女からはそんな素振りすら見せてきていない。


目が合った気がしただけかもしれないとも思い始める。
あるいは霧子ではなく他の誰かだったのかも、と。

ならばあの時保健室でキスをしていたのは誰だったのだろう。
聞えてきた吐息を苦しそう、と私は表現したが、キスをしていたのならきっとあれは……


普段と違い、生徒の数がまばらな教室では、余計に霧子の姿が目につく。
頬杖をついたままやる気のなさそうな彼女の姿を見ていて、また新しい疑問が湧いてくる。

私の知る鈴森霧子は、頭の良い生徒だったはずだ。
少なくとも補習を受けるところは見たことがないし、なんというか似つかわしくない。

私はともかく里穂や有希が悠々と超えた赤点のラインを彼女が下回る、そんなことあるだろうか。
そんなことを考えているうちに、補習はあっという間に終わってしまった。


うわの空で聞いていた補習になんの成果もあるはずはなく、ただ長時間座っていた疲労感だけが残った。
ノロノロと鞄にノートを詰めていた時、急に声を掛けられた。

「ちょっといいかな、早川千紗季さん」

その声の正体は他の誰でもない、鈴森霧子だった。

次回→ 06

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